血管新生とは,血管内皮細胞が遊走し,増殖し,新しい血管を形成する一連の過程です.
血管新生は生殖,成長,創傷の治癒など,様々な生理的現象に関与しています.また,
腫瘍の増殖,転移,関節炎,糖尿病性網膜症などの多くの病理的現象にも関与しています.
Angiogenin(ANG)はHT-29ヒト大腸癌細胞株の培養上清から単離された血管新生因子です.
癌細胞の産生するANGは,血管内皮細胞に作用し腫瘍血管新生に重要な役割を果たしています.
ANGは血管内皮細胞表面に存在する受容体に結合すると,シグナル伝達因子であるERKとAktを活性化させると同時に,
ANG自体も直接に核に移動します.核内のANGはリボソームDNA(rDNA)のプロモーター領域に結合し,rRNAの転写を促進します.
ANGの促進するrRNAの転写は,血管新生において必須であることが我々の研究で明らかになりました.つまりANG以外の血管新生因子であるbFGFやVEGFによる血管新生においても,
ANGは核内に移行しrRNAの転写を促進します.さらに,ANG発現を阻害すると,bFGFやVEGFによる血管新生は阻害されます.
またANG発現を阻害することで腫瘍の増殖や転移が制御できることも,我々の研究で明らかになりつつあります.我々は,血管新生因子Angiogeninを分子標的とした,口腔癌に対する新たな治療法の開発を目指しています.
<参考文献>
Kishimoto K, et al. Oncogene(2005)
Yoshioka N, et al. Proc Natl Acad Sci USA (2006)
Ibaragi S, et al. Clin Cancer Res(2009)