脳梗塞や心筋梗塞など血栓(血管内での血液の固まり)によって起こる病気を予防するために、抗血栓薬が使われています。抗血栓薬には、抗凝固薬(ワーファリン)と抗血小板薬(バイアスピリン、プレタール、パナルジンなど)の2種類があります。抗血栓薬は血の固まりを作りにくくする作用を持っているため、出血が止まりにくくなります。そのため、抜歯や歯周外科治療などの小手術を受ける場合には、内服中の抗血栓薬を中止することがありました。
しかし、抗血栓薬を中断すると脳梗塞や心筋梗塞などを発症する可能性があります。たとえば、ワルファリンを中断すると約1%の頻度で脳梗塞などの血栓性疾患を起こし、多くは重症であることが報告されています
1、2)
。また、脳梗塞の患者さんが抗血小板薬を中断すると脳梗塞再発の危険性が3.4倍に上昇するとの報告もあります
3)
。日本循環器学会の2004年「抗凝固・抗血小板療法のガイドライン」(Circ J 68 (Supple IV) 2004)では「
抜歯はワルファリンを原疾患に対する至適治療域にコントロールした上で、継続下での施行が望ましい。抗血小板薬も継続下の抜歯が望ましい
」とあります。
現在、日本人においてはPT-INR 3未満であれば抜歯の難易度にもよりますが、適切な局所止血処置がなされれば通常の簡単な抜歯では安全に止血可能であると考えます。しかしながら、埋伏抜歯や広範囲に及ぶ治療では口腔外科専門医による止血処置が必要です。
参考文献
1)Arch Intern Med 1998;158
2)Neurology 2003; 61
3)Arch Neurol 2005; 62
岡山大学病院 口腔外科(病態系)においては、抗血栓療法中の患者様の抜歯に関しては、以下のガイドラインのもと原則として入院管理下(1日入院)で安全に行っており、特に術後出血に対応しています。
1)普通抜歯であれば、PT-INR 3未満ならワルファリン継続下に抜歯
2)抗血小板薬を併用している場合、両薬剤とも継続
3)PT-INRの測定は抜歯当日に行うことを原則とする(少なくとも72時間前)
4)抜歯後、局所止血剤を使用し緊密に縫合し、圧迫止血する。それでも止血が困難な場合には止血床を準備して止血管理を慎重に行う
5)局所止血方法で止血困難な場合には、医師と連携し、ワルファリン中断、全身的な止血方法を行う