顎変形症
顎変形症とは,骨格的に頭蓋に対する上顎骨または下顎骨あるいはその両方の大きさ,形,位置の異常によって,顔面の変形と咬み合わせの異常を起こしている状態のことをいいます。
顎変形症の種類には,上顎前突症,下顎前突症,上顎後退症,下顎後退症,上下顎前突症,開咬症,非対称症などがあります。これらのうち,複数のものが組み合わさったものもあります。
下顎後退症
非対称症
治療について
骨格的なズレが大きい場合は、歯列矯正だけでは顔面の歪みや咬み合わせを改善できないので、
手術によって顎顔面の変形を治すとともに咬み合わせの回復・改善を行います。
一般的には手術前に矯正治療(術前矯正)を行い、外科手術(顎矯正手術)を行います。
手術後に最終的な咬み合わせの調整をするために矯正治療(術後矯正)が必要です。
手術の方法
入院の上,全身麻酔下で手術をします。
手術は基本的にすべて口の中から行うので、顔に傷が残ることはありません。
具体的には、口の中の粘膜を切開したあと骨切りを行って、
咬み合わせと左右のバランスが整う位置に骨を移動させたあと、骨接合材(プレートとスクリュー)で固定します。
手術部位の安静をはかるために、顎間固定(上顎歯列と下顎歯列をワイヤーで結んで固定)を5~6日間行います。
骨接合材の種類
吸収性と非吸収性があります。
吸収性のものは主にポリL乳酸という体内に吸収される素材でできています。
非吸収性のものはチタンでできています。
チタンは生体親和性に優れているのでアレルギー反応などが起こる心配がほとんどなく、
体内に半永久的に留置しても問題がおこることはありませんが、骨接合がおこった後は異物になりますので、
術後約6ヵ月でチタンのプレートやスクリューを撤去することが多いです。
吸収性プレートとネジ
チタンプレートとネジ
手術による効果
咬み合わせをなおし、食べ物が噛みやすくなります。
発音がしやすくなります。
審美的にも改善されます。
口を開けたり、閉じたりするときの顎関節の雑音が改善されることもあります。
偶発症とその対策
出血
手術によって異なりますが、平均200-400ml程度の出血が予想されます。
下顎単独の手術の場合はほとんど出血がみられないこともあります。
従って、当科では自己血輸血(術前に自分の血液を採取して貯血し、輸血することは基本的には行いません。
しかしながら、ごく稀に大量に出血する可能性がある手術なので、その場合は輸血で対応することになります。
輸血を行った場合には、輸血による感染などの合併症がないかチェックするために定期的に血液検査を行います。
顔の腫脹抑制
術後数日間はフェイスマスクを着用して外から圧迫します。
また、口腔内の歯肉切開部からチューブを入れてたまった血液などを持続的に吸引できるようにします。
顔面や骨の感染予防
予防策として、術後3日間ほど抗菌薬の点滴を1日3回行います。
神経の損傷による知覚低下
術式にもよりますが、術後に頬、唇、あご周辺、歯肉などの感覚が鈍くなることがあります。
その場合は症状を改善するためにお薬(ビタミン剤など)を内服していただきます。
呼吸管理
上下顎手術した場合は、手術当日は全身麻酔をかけるために鼻から挿入した挿管チューブを留置した状態でICU(集中治療室)で管理します。
翌日、自分で呼吸ができることを麻酔科医と一緒に確認した後、挿管チューブを抜きます。
挿管チューブが入っている間は声を出すことができません。
下顎単独の手術の場合は、基本的には挿管チューブを手術室で抜いて病室に帰りますが、
腫れがひどく自分で呼吸することが困難と判断した場合は、挿管チューブを留置した状態でICUで管理します。
翌日、自分で呼吸ができることを麻酔科医と一緒に確認した後、挿管チューブを抜きます。
治療の流れ
検査・診断
エックス線検査、顔貌の分析、歯列模型などから顎変形症の診断をして、どのような処置や手術が必要かを判断します。
術前矯正
矯正装置を装着して手術後に最も良いかみ合わせになるように歯の矯正をします。
手術の妨げになる親知らずの抜歯が必要になることもあります。
手術日の決定
手術前の最終的な骨の状態を確認するためエックス線写真を撮影して、術式と手術日を決めます。
手術直前
全身麻酔下での手術に必要な検査をします。
血液検査、尿検査、心電図検査、胸部エックス線写真撮影、肺機能検査を行います。
手術1~2週間前に外来で歯科麻酔科の診察があります。
入院から手術まで
基本的には手術から2日前に入院していただきます。
手術時間は手術の内容によって異なりますが、約3~6時間です。
多くの場合、顎間固定をした状態で病室に帰ります。
術後から退院まで
術後は5~6日間、顎間固定を行います。その間の食事は流動食です。
術後3,4日目までは胃管チューブから流動食をとりますが、それ以降は歯の隙間から流し込むことができます。
術後3日間は抗菌薬の点滴を1日3回行います。
顎間固定がはずれたら、退院までの1週間、新しく構成された咬み合わせでリハビリ(口を開けたり閉じたりする練習)を行います。
食事はおかゆ・きざみ食から開始します。入院期間は術後2週間です。
術後矯正
退院後は矯正装置で歯並びの微調整を行います。また、後戻り防止のために、
ゴムを使って顎間ゴム牽引(上下の歯をゴムでひっぱる)を行います。
術後の経過観察は口腔外科外来で術後3、5週目、2、3、6、12ヶ月目に行います。
主にエックス線写真を撮影して骨・咬み合わせの状態などをチェックします。
保定
矯正のために歯に装着していた装置(ブラケット)を撤去します。
後戻りしないための保定装置(リテーナー)を使用していただきます。
治療費用について
顎変形症の治療は医療保険の対象になります
当科で顎変形症と診断されて、外科矯正治療を行う場合、入院・手術の費用は全て保険適用になります。
また、手術のための術前および術後の矯正治療も保険の適用になります。
高額医療費の申請ができます
同じ病院や診療所でかかる医療費が1ヶ月の自己負担限度額を超える場合には、
事前に必要な書類を病院窓口に提出していただければ、窓口で支払う負担が月単位で一定の限度額にとどめることができます。
(支払う限度額は患者様の所得区分に応じて異なります)
具体的な手続きとして、加入されている医療保険の保険者(健康保険組合、社会保険事務所または市町村(国民健康保険))などに事前の申請を行い、
保険者から発行される認定証を大学病院の窓口に提示していただく必要があります。
不明な点がありましたら、詳しくは加入されている医療保険の保険者までお問い合わせください。